漢字の分類に「六書」というものがありますが、このうち多くを占めているものは「形声文字」です。
形声文字とは、意味を表す意符と、音を表す音符を組み合わせて作られる文字のことで、漢字学習の観点からは、漢字のパーツを見ることで読み(音読み)が推測できる、という特徴があります。「同」と「銅」はいずれも「ドウ」と読む、というようなものです。
では、「觥」は何と読むでしょうか。
よほど漢字に詳しい人以外にとっては全く馴染みのない漢字でしょうが、正解は「コウ」です。これも「光」が「コウ」と読むことを知っていれば連想できたと思います。
このように、知らない漢字の読みの推測に形声文字の特色を活用するのは有効な手段ですが、一筋縄ではいかないのが漢字の世界。むしろ漢検をはじめ、試験の類いでは単純な推測では解けない問題が多く出題される傾向があると思います。
そこで、パーツからの推測では読み間違えやすい漢字や、同じパーツを持ちつつ読み方が異なる漢字などを、パーツ(音符)ごとにまとめてみようと思います。
記念すべき第1回のパーツは「嬰」です。
なお、漢字の分類、読み、熟語などについては漢検漢字辞典(第2版)を参照していますので、辞典によっては用例等が異なる場合がありますが、ご容赦ください。
「嬰」を含む漢字一覧
漢字 | 音読み | 訓読み | 熟語など | |
---|---|---|---|---|
1 | 嬰 | エイ | あかご・めぐ(る)・ふ(れる) | 嬰児(えいじ/みどりご) |
2 | 癭 | エイ | こぶ | 癭瘤(えいりゅう) |
3 | 纓 | エイ ヨウ | ひも・むながい・まと(う) | 纓冠(えいかん)・組纓(そえい) |
4 | 櫻 桜 | オウ | さくら | 桜花爛漫(おうからんまん)・桜桃(おうとう/さくらんぼ) |
5 | 嚶 | オウ | な(く) | 嚶鳴(おうめい) |
6 | 罌 | オウ | かめ・もたい | 罌缶(おうふ)・罌粟(けし) |
7 | 鸚 | オウ イン | 鸚鵡(おうむ)・鸚哥(いんこ) | |
8 | 瓔 | エイ ヨウ | くびかざ(り) | 珠瓔(しゅえい)・鈿瓔(でんえい)・瓔珞(ようらく) |
①エイ系
「嬰」:①みどりご、赤子という意味のほか、②めぐらす、取り巻く、③触れる、触る、④音楽で半音高くすることを意味する。
・嬰児(えいじ/みどりご):生まれて間もない子供。ちのみご。赤ん坊。
※嬰城(えいじょう):漢字源に掲載。城壁を張り巡らして、その中に立てこもる。籠城する。
※嬰記号(えいきごう):音楽で、もとの音を半音高くすることを表す「♯」記号のこと。
「癭」:「こぶ」と読み、首筋にできるこぶ、樹皮の節こぶという意味。漢検漢字辞典では見出し熟語がない。
※癭瘤(えいりゅう):昆虫・線虫・ダニや細菌・菌類が寄生したり共生したりして、植物体に異常発育または異常形態形成を起こした部分。虫こぶや根粒の類。
「纓」:冠のひもという意味で使うことが多い。「ヨウ」とも読むとあるが、そう読む熟語が掲げられていないので「エイ」と読むものとして覚えれば良いかと思われます。
※纓冠(えいかん):漢字源に掲載。冠のひもを結ぶ。冠を被ること。
※組纓(そえい):冠のくみひも。
②オウ系
「桜」:常用漢字。日本の国花でもある「さくら」を意味する。
・桜花爛漫(おうからんまん):満開になった桜の花が見事に咲き乱れているさま。
・桜桃(おうとう/さくらんぼ):セイヨウウミザクラの別称。
※山桜桃(ゆすらうめ):バラ科の落葉低木。
・桜肉(さくらにく):馬肉の別称。
・桜府(サクラメント):アメリカカリフォルニア州の州都。
「嚶」:「な(く)(=啼)」と読み、鳥が啼くという意味。
・嚶鳴(おうめい):①鳥が互いに鳴き交わすこと。②仲間を求めあうこと。
「罌」:「もたい」とは、腹部が大きく、口の小さな丸い甕(かめ)。
・罌粟(けし):ケシ科の二年草。
※罌缶(おうふ):漢字源に掲載。口の部分が小さく、腹部が大きいかめ。
「鸚」:「オウ」のほか、例外的に「イン」とも読む。ただし、「鸚哥(いんこ)」以外の用例がないので、「鸚鵡(おうむ)」と混同しないことが最も注意すべきことか。
・鸚鵡(おうむ):オウム科の鳥の中で、大型で尾の短いものの総称。
・鸚哥(いんこ):オウム科の鳥の中で、小型で羽が美しいものの総称。
③その他例外
「瓔」:熟語で下に付く場合「エイ」、上に付く場合は「ヨウ」と読み方が異なる。熟語はそれぞれ訓読みのとおり「くびかざ(り)」の意味で用いる。
・瓔珞(ようらく):宝石を連ねて仏像の頭・首・胸などを飾るもの。寺院内の天蓋の装飾にも用いる。
・珠瓔(しゅえい):漢字源に掲載。真珠の首飾り。
・鈿瓔(でんえい):漢字源に掲載。黄金をはめ込んで飾った首飾り。
終わりに
基本的には「エイ」または「オウ」の使い分けです。
意外なところでは、「鸚哥」は普通の熟語である、ということでしょうか。「檸檬(レモン)」や「薔薇(バラ)」のような熟字訓と思いがちですが、両方とも「イン」「コ」と音読みが普通にあります。
という訳で、こんな感じでパーツ毎に漢字をまとめてみました。
ほかにもいろいろあると思いますので、少しずつ投稿していければと思っています。