同音異字ならぬ同字異音

漢検以外

同音異字といえば、「効果」と「高価」のように、同じ読みであるが違う漢字を使う言葉を指します。

意味が異なる場合は、「同音異義語」とも言いますね。

このように「同音異字」は想像しやすいですが、漢字には「同字異音」とも言うべき、「同じ形であるが違う漢字」というものがあります。

今回はそういった漢字を集めてみました。

①芸

「芸」(藝):ゲイ、わざ、う(える)

芸術、芸能などで使用する常用漢字です。技や技能という意味では「芸能」「武芸」、草木を植えるという意味では「園芸」などの使用例があります。
旧字体は「藝」。

「芸」:ウン、くさぎ(る)

全く同じ字形ですが、こちらは「ウン」と読みます。
日本史用語として「芸亭(うんてい)」というものがあり、奈良時代の有力貴族である石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)が設立した、日本最古の私設図書館と言われるものの名称ですが、これが真面な用例として唯一かと思われます。
なお、大学受験向けの日本史のテキストによっては「芸(ゲイ)」と別の文字であると明確化するためか、「芸(ウン)」の草冠の間を空ける(「サ」ではなく「++」のような書き方)としているものがありますが、厳密には草冠の書き方の差で別字とすることはできないので、便宜的なものでしかないです。
漢字としては、書物の虫除け用に用いる香草と言う意味で、「芸香(うんこう)」、「芸閣(うんかく)=書庫」、また「くさぎる=草を刈る」と言う意味で「芸夫(うんぷ)」という熟語がありますが、あまり馴染みはないかと思われます。

②缶

「缶」(罐):カン、かま

缶詰、薬缶などと言うときの「缶」です。ブリキ等の金属製の容器のことを指します。
あくまで音読みが「カン」で、訓読みは「かま」です。
旧字体は「罐」。

「缶」:フ、ほとぎ

こちらは「ほとぎ」「もたい」という意味。口のつぼんだ素焼きの器のことを指します。「ほとぎ」とは、酒や水などを入れた、銅が太く口が小さい土製のかめのこと。
音読みは「フ」で、熟語としては「罌缶(おうふ)」など。

③欠

「欠」(缺):ケツ、か(ける)、か(く)

あるべきものが足りないという意味、あるいは休む、取りやめるという意味で用いる「欠」です。前者は「欠陥」「補欠」、後者は「欠席」「出欠」などで使います。
旧字体は「缺」。

「欠」:ケン、あくび

「欠伸」を「あくび」と読むのは割合有名かも知れませんが、「欠(ケツ)」とは別字の扱いです。
そのため、「欠伸」を音読みする場合は「ケッシン」ではなく「ケンシン」です。この場合意味は「あくび」と「背伸び」という意味になります。

なお、法の規定が欠けているという法律用語に「欠缺(けんけつ)」という熟語があり、これは「欠(ケン)」と「欠(=缺)(ケツ)」という、見た目が同じだが別の文字を2つ使った二字熟語になっています。
このパターンは非常に珍しいですね。

「欠缺(けんけつ)」という熟語の不思議
「欠缺」という熟語はご存じでしょうか。読み方は「けんけつ」。法律用語として用いられることがあり、要件を満たしてないことを指して、「法の欠缺」などと言ったりします。この「欠缺(けんけつ)」ですが、「缺」という字は実は旧字体です。通常、人名や地...

④余

「余」(餘):ヨ、あま(る)、あま(す)、ほか

あまる、その他と言う意味の「余」です。熟語は多く、「余計」「余生」「余韻」「余波(よは/なごり)」などは「あまる」の意味、「余念」「余興」「余所(よそ)」などは「その他」の意味です。
旧字体は「餘」。

「余」:ヨ、われ

われ(我)、自称という意味の「余」で、熟語としては「余輩(よはい)」など。同じく「ヨ」と読む漢字であるため、使い分けに困るシーンは想定しづらいですが、もともとは別の字です。

⑤予

「予」(豫):ヨ、あらかじ(め)、かね(て)

「予約」「予算」など、前もってという意味で用いるときの「予」です。
旧字体は「豫」。

「予」:ヨ、われ、あた(える)、ゆる(す)

「余(われ)」と似たような意味として「予輩(よはい)」という使い方をするほか、「猶予」というときの「予」はこちらの意味。

⑥弁

「弁」(辨):ベン、わきま(える)、わ(ける)

「弁識(べんしき)=物事をわきまえて知ること」「弁済」のように、物事を処理するという意味の「弁」です。
旧字体は「辨」。「弁髪(べんぱつ)」は「辮髪」と書くため、分ける、と言う意味の「弁」ですね。

「弁」(瓣):ベン、はなびら

「花弁(かべん/はなびら)」のように「はなびら」の意味、あるいは「調整弁」のように、液体や気体の出入りを調整するものという意味でもこの字を用います。
旧字体は「瓣」。

「弁」(辯):ベン、と(く)、かた(る)

説く、話す、語る、言葉遣いという意味の「弁」です。「弁護士」「弁明」「雄弁」など、この意味での用例は多い印象です。
旧字体は「辯」。「弁財天/弁才天(べんざいてん)」は仏教における知恵、弁舌、技芸の女神として祀られていますが、このときの「弁」は「辯」です。

「弁」:ベン、かんむり

正真正銘(?)の「弁」ですが、用例としては最も馴染みが薄く、意味としては「かんむり」。「武弁(ぶべん)=武官のかんむり」が主な用例。

「弁」は4つの漢字がまとめられているという珍しいパターンです。
なお、「弁」といえば「弁当」を思い浮かべる方も多いかと思われますが、この熟語の語源には諸説あるようで、一説によれば「弁(そな)えて用に当てる」ことから「辨當=弁当」となったそう。

まとめ

以上、もともとは別の漢字であったものが、字体が改まったこと等により衝突を起こし、同じ漢字になった例をまとめてみました。

結果として、「芸」のように「植える」「くさぎる」という相反する意味を両立させている漢字や、「弁」のように多様な意味を持つに至った漢字が生まれたことは興味深いですね。